築40年を超え、新しい命を吹き込まれた名建築物”中銀カプセルタワービル”| ケンセツタンボウ

建設業のやりがいは「建てたものが形になって残り続けること」。建物は生まれる前に設計士によって形が与えられ、数多くの職人さんの手によって現実に姿を現します。そして、完成した建物には使う人々の記憶や思いが日々宿っていくのです。

この記事を読む方の中には、建設業に携わる方も多いはず。きっと自分が仕事で携わった建物の前を通ると、胸を張りたくなるような、隣の人に自慢したくなるような、そんな気持ちになるのではないでしょうか。

今回は、現代に残る名建築の歴史や魅力に迫るため、銀座八丁目に建つ中銀カプセルタワービルを訪ねました。

ブロックが積み重なったような不思議なビルを設計したのは、現代建築の巨匠、故・黒川紀章氏。この記事では”中銀カプセルタワービル”の保存・再生プロジェクトを進める前田達之さんにお話を伺います。

みなさんはじめまして、中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト代表の前田です。

汐留駅から浜離宮恩寵公園に向かって徒歩で5分ほど。左手側に見えてくるのが、この「中銀カプセルタワービル」です。

このビルの設計を手掛けたのは、国立新美術館などを設計した黒川紀章氏。竣工が始まった1972年(昭和47年)は高度経済成長期の真っ只中で、1970年には大阪万博が開催され、日本全体が「科学の発展と明るい未来」に期待し、発展に向けて歩んでいる時代でした。

カプセルタワービルを見ると、この不思議なデザインがなぜ生まれたのか気になりませんか?実は、このデザインは”メタボリズム”という建築思想から生まれたものなのです。

■不思議なデザインを生んだ建築運動”メタボリズム”とは?

黒川氏は1970年代に菊竹清訓氏、槇文彦氏などと共に建築運動”メタボリズム”を展開しています。メタボリズムが目指したのは「環境に適応する生き物のように、人や時代のニーズに合わせて、姿を変えながら増殖していく建築や都市」でした。

カプセルタワービルのカプセル(部屋)は、実は付け替えられるように設計されています。それはメタボリズムの考えに合わせて、人の細胞が新陳代謝するように古いカプセルを新しいカプセルに入れ替え、時代に合わせて使われることを想定していたからです。

一見奇抜なデザインも、建物の新陳代謝を実現するための合理的な設計だったのです。

このカプセルの広さは約10㎡で、小さい部屋の中にはユニットバスとベッド、壁には折りたたみ式のデスクのほか、エアコンや電話、テープレコーダー、テレビやラジオなどが組み込まれていました。

今では老朽化して設備が現存していないカプセルも多いのですが、私のカプセルは比較的当時の姿を残しているもののひとつ。

部屋は10㎡という限られた空間の中でも快適に暮らせるよう、家具や収納を折りたたんで壁に組み込めるようになっています。これは内装をデザインした方が小型ヨットの内装をヒントにして設計したそうです。

費用面や区分所有者の同意が取れないことから“建物”の新陳代謝は行われていませんが、その代わりに近年デザイナーや学生、DJや映画監督などなど様々な方がカプセルに住み始め、“人”の面で新陳代謝が起きているのが面白いところ。

設計者の当初の思惑とは異なる形になりましたが、カプセルタワーは現代に適した形で当時の構想を実現しているんです。

■目標は重要文化財登録、老朽化する名建築を救え

とはいえビルも老朽化が進み、カプセルタワーと同じ時期に建てられたビルも徐々にその姿を減らしています。

この建物も老朽化から建て替えの話が出ていますが、私たちはそれを防ぎたい。私たち”中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト”は、この建築物の価値を高め、未来に残していくためのものなんです。

まずはカプセルの改修。古くなった内装を自分たちの手で改修して居住できるように更新しています。私も自分が持っているカプセルを機に20戸ほどのカプセルを改修しました。

ほかにプロジェクトの一環として、「中銀カプセルタワービル 銀座の白い箱舟(青月社)」「中銀カプセルガール(写真集)」などの書籍の出版や、カプセルを買いたい、借りたい人とカプセルオーナーのマッチングをおこなう「カプセルバンク」も始めています。

私たちが保存活動を始めてから数年が経ちますが、最近では部屋が美術ギャラリーとして使用されたり、映画やCMのロケ地としても使用されるようになり、居住者の数も増えてきました。

ビルは残念ながら一般開放はされていないのですが、メディアでの露出が増えたことで海外からの注目も集まり、その姿を見ようと連日ビルの周りには海外の観光客が集まるようになっています。

私たちの目標は築50年を目指し、ビルを重要文化財に登録すること。そしてこれは夢物語かもしれませんが、世界遺産登録も構想しています。私たちはこの建物にそれだけのポテンシャルや歴史的価値を感じているんです。

■注目を集める理由はレトロフューチャーなデザインにあり?

このカプセルの魅力は、まずそのデザインにあるでしょう。部屋に入るとまず目に飛び込んでくる丸い大きな窓がその象徴です。

「丸」や曲面を使ったデザインはユニットバスの窓や共有スペースなど、このビルの各所に使われています。四角いブロックを積み上げたような外観と共に、このデザインから生まれるレトロフューチャー感が注目を集める理由の一つかもしれません。

かくいう私も勤めている会社がこの近くで、「変わったビルだな」と思いながら、毎日カプセルタワービルの前を通って通勤していたんです。たまたま縁があってカプセルを購入することになりましたが、このデザインでなければご縁を逃していたかもしれませんね。

■お隣さんに「洗濯機借して」と言える、まるで長屋のようなご近所付き合い

もうひとつのカプセルの魅力は、ここに集まる人々ですね。ここにいる人はお互いの部屋に缶ビールを持って遊びに行ったり、洗濯機を借りに行ったりと、まるで長屋のような感覚で交流しているんですよ。

東京に住むと、隣の部屋の住人の顔も知らないことが多いので、ビル全体のご近所付き合いが生まれているケースは稀だと思います。

ここに集まってくる人はカプセルタワービルに興味があって住み始めた人ばかりですから、それが共通の趣味のようになって、長屋のような交流が生まれているのかもしれません。

このビルには長屋のようなご近所付き合いをはじめ、不思議な居心地の良さがあります。カプセルの中は狭いから、逆に落ち着くんですかね(笑)そのせいか、活動を重ねていくなかで一度部屋を離れた住人が再びカプセルに戻ってくるケースも出てきました。

このプロジェクトの目的はビルの保存や再生ですが、まずはこのビルのファンが増えてくれればと考えています。

定期的にカプセル中で交流会も行っているので、もしご興味があれば下記のサイトから遊びにいらしてくださいね。
中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト

プロジェクトが始まる前は入居者も減り、活気を失っていたカプセルタワービスですが、前田さんをはじめプロジェクトに関わる人々の行動で再び活気を取り戻しつつあります。

建物はそれ単体では成り立たないもの。住む人が手を加えることではじめて命が宿ります。40年以上の年月を重ねた銀座の名建築は関わる人々の手で新しい命が吹き込まれていました。

ケンセツタンボウシリーズ

第2回 先人の情熱が“私達が暮らす社会”を作った、湯島の建築資料館で得る仕事のモチベーション
第3回 新施設が誕生!進化し続ける富士教育訓練センターの20年の歩み
第4回 建築模型の美しく緻密な世界。「建築倉庫ミュージアム」で楽しむアート

 

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