東京タワーや京王百貨店のトイレ設計を担当!設計事務所ゴンドラの小林代表が語る。利用者に寄り添うことの大切さ

世の中に数多く存在している設計事務所。各社がそれぞれの専門性や長所を武器に、日々の業務に励んでいます。その中に、“トイレ”を専門としている設計事務所があるのをご存知でしょうか?それが、今回の主役である「設計事務所ゴンドラ」です。

同社は、東京タワーや京王百貨店、大丸東京店、カラフルタウン岐阜など、各種有名施設のトイレ設計を実施。また、2020年東京オリンピックの開催に向け、成田国際空港内にあるトイレの全面リニューアルの設計を担当する一社でもあり、その仕事の品質の高さは、業界内でも一目置かれています。

同社はなぜトイレ設計を専門に扱うようになったのか?この分野には、どんな仕事の醍醐味があるのか?代表取締役の小林純子さんにお話を伺いました。

「東洋一のトイレをつくる」大規模プロジェクトに携わったことが、トイレ設計の魅力を発見するきっかけになった

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―小林さんは、何をきっかけとしてトイレ設計を専門とするようになったのでしょうか?

小林:30年前くらい、ちょうどバブルの頃、本州と四国間に瀬戸大橋が開通しました。その際、四国に人を呼ぶために色々な企業が働きかけたんです。企業のひとつにユニ・チャームがあり、その社長が「トイレを綺麗にしよう」という企画を立ち上げました。そうしておけば、観光バスなどが途中で立ち寄ってくれるでしょう。おむつやナプキンなどトイレに関係する仕事を同社がなさっていたからこそ、そういう発想が生まれたのだと思います。

その企画では「東洋一のトイレをつくる」ということを目標に掲げ、5億円をかけて公共トイレ「チャームステーション」を完成させました。観光バスまるまる一台分の人が入っても混雑しないくらい大きなものだったんです。そのプロジェクトに参加したことが、トイレの設計に携わるきっかけになりました。

―その案件を通じて、トイレ設計に可能性を感じたのはどうしてでしょうか?

小林:当時は、床を洗ったまま水浸しだったりして、あまり衛生的でない公共トイレが多かったんです。一度、女性同士で、普段どのようにトイレを利用しているか話したことがあったのですが、中には「ズボンを履いて利用すると裾が汚れてしまうから、輪ゴムを使ってわざわざ裾を持ち上げている」という方もいらっしゃいました。だからこそ、改善の余地がたくさんあったんですね。

その頃はトイレの設計を専門にやっている人なんてほとんどいなかったですし、それに男性よりも女性の方が細かい部分に気づけます。だから、「私、この分野が向いているかも」と感じたんです。それに、実際にやってみたらすごく面白くて。そこから、トイレの持つ可能性に気づいたという感じですね。

当時はバブルで、どの企業もお金を持っていましたから、社会的なインフラを整備するため様々なものに投資をしていました。その一環として、トイレを綺麗にするということにもスポットが当たり、他の公共トイレも徐々に整備が進んでいったんです。

でも不思議と、バブルが弾けたり、リーマンショックが起こったりして不景気になっても、トイレの需要は落ちこみません。「毎日利用するものだから、綺麗なものを使いたい」というように、みなさんのトイレに対する意識が昔と比べると高くなったのかもしれませんね。

トイレは、プライベートな空間でありながら共用されている。そこに街の社会性が表れる

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▲事務所の壁には、これまで設計を手掛けてきた有名施設の写真がズラリと並ぶ。

―トイレ設計の難しさは、どういった部分にありますか?

小林:トイレは“秘密の場所”という特徴があります。要するに、行ってきたことをオープンにするような場所ではなく、そっと行って、そっと用を足すようなプライベートな空間です。その空間を共用して使うからこそ、安全面や衛生面などの問題が生じてくる。その、“プライベート”と“共用”のバランスをどう取るかに、難しさがありますね。

面白いのは、各所にあるトイレを見ていると、「どんな人々が利用しているのか」が明快に見えてくるんです。例えば、治安が悪い街のトイレは荒廃していることが多い。一方で、高級なホテルのように社会的な地位の高い方がたくさんいらっしゃる場所だと、だいたいトイレも綺麗に使われています。そこに社会性が表れるんです。

―「トイレに社会性が表れる」というのは、とても示唆的なフレーズですね。

小林:そうなんです。だからこそ、「どんな利用者が、どのような使い方をするのか」ということを想定しながら設計する必要があります。どこの施設でも同じようなトイレを作る、というのではいけないんです。

―それを象徴するようなエピソードを、ぜひ聞かせてください。

小林:新宿にある「思い出横丁」ってご存知ですか?このトイレも、私たちが手がけました。そこは敷地が非常に狭くて、かつ男女共用。小便器が入口近くにあり、大便器が奥の方にあるので、男性が小用を足している後ろを女性が歩いて通る必要があるんです。この状態だと、女性はトイレの利用をちょっと躊躇してしまいますよね。

トイレが配置されているエリアは上下水道の配管が非常に入り組んでいたこと、そして横丁を観光資源化するために趣を残す必要があったことから、大規模な改装工事はできませんでした。そこで私たちが何をやったかというと、入口近くに女性専用の個室を設置したんです。

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▲説明をしながら、ノートに間取りを丁寧に描いてくださった小林さん。こういった所にも、彼女のホスピタリティーの高さがよく表れている。

―これのおかげで、女性はわざわざ男性の後ろを通らなくても良くなるわけですね。

小林:そう。しかも、女性はトイレの中ではなく、外で待てるようになるでしょう。ちょっとしたことですけれど、これが本当に女性の利用者からの評判が良かったんです。設計をする際には、そこにどんな人がやって来るのか、そしてその人たちはどんな利用の仕方をするのかといったことを、一つひとつ丁寧に検討していく必要があります。

徹底した現地調査から見えてくる、その場所にフィットしたトイレ設計

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▲社員の方のデスクを拝見させてもらうと、トイレの壁面に貼られるピクトサインの作成中だった。こうした一つひとつの地道な作業が、設計の品質を向上させている。

―利用者の立場になって考えるからこそ、アイデアが生まれてくるのですね。こうした“解”にたどり着くために、普段どのような調査をされているのでしょうか?

小林:新宿の「京王百貨店」のトイレ改修を例にお話ししましょうか。この案件で事前情報として聞いていたのは、このお店は中高年のお客様が多いこと。そして、数名のグループで毎日いらっしゃる方の割合が高いということでした。

これはなぜかというと、デパートが安心できる場所だからなんだそうです。必ず誰か人がいて、商品を買うと店員さんが親切にしてくれて、話だって聞いてくれますから。そういった方々の憩いの場になっているらしいんですね。

これが本当に正しいかを検証するため、私たちは学生のアルバイトにお手伝いしてもらって、一日中トイレの前に貼りついて調査をしました。どんな年齢の方がいらっしゃるのか。何人くらいなのか。どれくらいの時間滞在しているのか。そうしたら、事前情報が本当に正しいということが検証できたんですよ。

―そこまで徹底的した調査が、利用者にとって本当に利用しやすい設計に繋がるのですね。

小林:そのデータを生かして、京王百貨店のトイレはブースや入口を広くし、数名で一緒に入ってもゆったり使えるようなものにしました。こうした作業が、心地良いトイレの体験を生み出していくんです。

“トイレ”という存在がこれだけ評価されるようになったのが、素直に嬉しい

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―小林さんがトイレ設計に携わり始めた頃と、現在とで、置かれている環境の違いを感じることはありますか?

小林:30年前と今とでは、依頼者側の意識が変わってきたと思います。レベルが高くなってきたと言いますか。現代の日本人は、普段から綺麗なトイレを目にするようになっているので、それらの写真を撮って「こういう雰囲気にしてほしい」と注文をして下さる方が非常に増えてきました。

かつては、依頼者でトイレにこだわる方って「ちょっと変わった人」という感じだったんです。ほとんどの方は、もっと別の所に関心を持っていました。毎日利用するものだから本当はとても大事なんですけど、なかなか評価をしてくださらなかった。

でも今は違います。多くの方が、トイレがどれだけ重要なのか。そして、それが綺麗であることによって、生活がどれほど豊かになるかを理解してくださるようになりました。

なんだか自分たちのやってきたことが正しかったと信じられるような気がして、それがすごく嬉しいんですよ。

良い設計に必要なのは、“利用者に寄り添う”という姿勢

利用者のことをイメージし、そして調査しながら、真摯に設計をされている小林さん。その根底にあるのは、利用者への深い愛情。それと仕事に対する揺るぎない信念でした。

身近にあるからこそ、意識することの少ない“トイレ”という存在。けれどそこには、設計者の温かい思いやりの心が込められているのです。

取材協力:設計事務所ゴンドラ

 

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