建設現場におけるヒューマンエラーの原因と対策〜高木元也さんに聞いた人間の本能〜

建設業界の労働災害(休業4日以上死傷者数)は、平成28年では15058人、このうち死亡者は294人。昭和36年をピークに建設業界の労働災害は減少の傾向にありますが、まだまだ繰り返し事故が起きている状況です。(※1)

中央労働災害防止協会の「平成28年 労働災害分析データ」によると15058件の内訳は、1位は「墜落・転落」(5184人)が例年の如くダントツで多く、「はさまれ・巻き込まれ」(1585人)、転倒(1512人)と続きます。(※2)

厚生労働省「労働災害原因要素の分析」(平成22年)によれば、労働災害発生の原因は、下記の割合になっています。

労働災害発生の原因 割合
不安全な行動及び不安全な状態に起因する労働災害 94.7%
不安全な行動のみに起因する労働災害 1.7%
不安全な状態のみに起因する労働災害 2.9%
不安全な行動もなく、不安全状態でもなかった労働災害 0.6%

これをみると、労働災害の原因のほとんどが、「不安全な行動」及び「不安全な状態」に起因しており、その多くがヒューマンエラーだということが分かっています。

なぜヒューマンエラーは起きるのか?
繰り返し同じ災害が起きるのはなぜか?
ヒューマンエラーによる労働災害をなくすためには、どうすればいいのか?

今回は、ヒューマンエラー、リスクマネジメント研究の第一人者である労働安全衛生総合研究所 リスク管理研究センターのセンター長である高木元也さんにお話をうかがいました。

労働災害は、”気のきく”人ほど起きる!?

ヒューマンエラーの原因と対策

–建設業界の労働災害の原因の多くにヒューマンエラーがあります。どうしてヒューマンエラーは起きてしまうのでしょうか?

高木元也さん(以下、敬称略)「不注意、無知、未経験、危険軽視、はヒューマンエラーの代表的な原因ですが、ヒューマンエラー対策をするには、まず人間の特性を知らないといけません 」

–人間の特性とはどのようなことでしょうか?

高木「例えば、危険軽視。高さ2mくらいの高所作業では、『これくらいの高さなら大丈夫』と危険を軽視しがちになります。このため、「高所では安全帯を使用する」という安全ルールが守られず、その結果、墜落災害につながってしまう。ただ、危険を軽視しがちになるのも人間の特性であり、それを踏まえた対策が必要になります。また、現場では、“気がきく“人が危険を軽視することがあります」

–どういうことでしょうか?

高木「実際にあった災害事例では、”バックホウのオペレーターがエンジンを切らずに降りてきて、足が操作レバーに当たって誤作動が起きた”というのがあります。席を立つときはエンジンを切らなければなりません。ただこのようなケースは、オペレーターには”気がきく”人が少なくないのです。運転席から降りて現場の作業員とコミュニケーションを図ろうとする。言われたことしかしない人は、いちいち重機から降りてきたりしないんですよ。マメにコミュニケーションを取ろうとした結果、起きしてしまった災害なんです」

–「現場にとってよかれ」が労働災害につながってしまう面がある。

高木「プラスのことをしようと考えて行動して、結果的に危険軽視になり、事故が起きる。特に建設業は”現場の判断”に任せている部分が多いので、余計難しいのです」

ヒューマンエラーは、本質を知ることで防止が可能

高木元也氏のインタビューカット

–“現場の判断”は建設現場では進捗にも大きな影響があります。

高木「様々な業界で作業手順書がありますが、”読んだら誰でもできる”というのが理想です。マクドナルドがいい例ですね。ただ、建設業では作業手順書があっても、現場の経験がなければ、ひとつひとつ作業手順を進めることはできません。職人の裁量に任してしまっている面がある。このため、自分勝手になっても仕方がない」

–ガチガチのマニュアル通りにすると、逆に工期が遅れてしまいますね。

高木「日々刻々と顔を変える現場で、ことこまかく作業手順を決めることは不可能です。仮にそのようなものを作ろうとしても莫大な量の作業手順書になり、そのようなものは誰も読まないでしょう。だから”現場の判断”に任せているわけです」

ヒューマンエラーの12パターン
危険軽視 不注意 無知・未経験・不慣れ
近道・省略行動 高齢者の心身機能低下 錯覚
場面行動本能 パニック 連絡不足
疲労 単調作業による意識低下 集団欠陥

–単純に災害の事例を見るのではなく、その背景を考慮しないといけないのですね。

高木「その通りです。”場面行動”が原因の災害にはこのような事例があります。採石場などで毎年起きる災害に”ベルトコンベアの挟まれ事故”があります。マニュアルには、『プーリーについた泥や砕石を清掃するときは必ずスイッチを切らなければならない』と書いてある」

–掃除のたびにスイッチを切ると、生産性が下がる可能性がありますね。

高木「そうです。そこで現場ではスイッチを切らないで掃除をする選択をします。さすがに雑巾やウエスなどで掃除をすると手を巻き込まれると考え、スコップや水圧で掃除ができるハイウォッシャーを使用しようとするのです。挟まれても、手を離せると思うからです。しかし、人間はスコップなどが巻き込まれた瞬間、手を離すどころか、反射的に引っ張り返してしまい、その結果ベルトに巻き込まれてしまうのです」

–確かに、反射的に人間はそう動きますね。

高木「人間はそうできているんです。これは人間の本能的な行動なんです」

人間の注意力には限界があること知る

ヒューマンエラーはなぜ起きる

–このような人間の特性があるから「繰り返し災害」が無くならないのでしょうか。

高木「ヒューマンエラーの事例だけを見て、『こういうことをするな』と言っても、なかなか伝わりにくいんです。”注意力”もそうです。よく『もっと注意していたら、この事故は起きなかった』と言われます。そもそも人間の注意力には限界があるんですよ。仕事に集中すればするほど、安全にまで気が回らなくなるんです」

–確かに集中していると、呼ばれても気づかないという例は経験があります。

高木「面白いんです、人間の耳は。4〜5人が一斉に話しかけてきても特定の1人の声を聞こうと思えば聞けるじゃないですか。それは逆に言えば、聞きたくない音を聞かないという能力でもあるんです」

–作業に集中していると、どうしても”不注意”が生まれてしまうということですね。

高木「人間はそうできているんです。毎年、建設現場で多発する事故に墜落があります。例えば、屋上に防水シートを敷く作業で落下して死亡する災害が、平成26年には5件もあったんですよ。これは仕事に集中しているからこそ起きた事例と言えるでしょう」

–周りからの注意や声掛けはなかったのでしょうか?

高木「ロールの防水シートを後ろにさがりながら敷いていく作業ですが、作業に集中するがあまり、屋上の端に気づかずパラペットにつまづき墜落したものばかりです。本来であれば、建物の外周に足場がなければならないのですが、取っ払ってしまっている。安全帯も、支柱がなくて親綱をつけられない。注意喚起する監視人もいない状況です」

–災害を起こした当事者だけに事故の原因を求めることはできませんね。

高木「ヒューマンエラー対策は、その当事者や現場にだけ、原因を求める傾向にありましたが、その背景に隠れた原因も洗い出してこそ、ようやく対策を講じれるものなのです」

「安全は確率論ではない!」ヒューマンエラーへの対策とは?

ヒューマンエラーへの対策

■レンタルした施設にて撮影を行っています。■被写体の人物はストックフォトモデルです

–そう考えるとヒューマンエラーをなくすことはできないような気もします。

高木「ゼロにするのは難しいと思います。でも、ゼロを目指す姿勢が必要です。現場で働いている方は他の現場で労働災害が起きても、”対岸の火事”のように思ってしまう。まず、全国で多発している事故を徹底的に周知して安全意識を高めることです。そして、次にヒューマンエラーの原因となる人間の特性を理解し、効果的な対策を講じることです」

–どのようにして安全意識を高めていけばよいのでしょうか?

高木「労働災害を起こすと、”過失相殺”など自分自身に大きなペナルティがはね返ってくることがあることを教育したり、時に莫大な経済損失が発生し、会社や周りの人に大きな迷惑をかけることを教育したりするなどして、働く人の安全意識を高めていきます」

–当事者ではない限り、事例を知ってもどこかニュースを見ているような感覚かもしれません。建設業に限ったことではないと思いますが。

高木「自分の周りでは事故が起きていなくても、だからそれでよしとせず、ならば全国をみる。全国ではどうなのか?こういった視点が重要です。例えば、管の切断作業があります。鉄くずや火花が飛んでくるので、保護メガネを着用しなければなりません。しかし保護メガネをしていない人が多いく、ただ、保護メガネをしなくても、30年、40年間、働く現場で被災しない人がほとんどです。しかし、全国でみれば、保護メガネをせずに、熱をもったけずりくずが目に跳んできて失明する人がいる。安全は確率論ではない面があります。絶対に発生させないという意識が絶対に必要なんです」

–ヒューマンエラーとは人間の本能や心理に起因するものだということが、非常によくわかりました。

高木「ヒューマンエラー対策のために必要なのは、”人間はエラーを起こすという前提で安全対策を講じること”と”人間がエラーをしないための安全管理”。この2段構えが重要です。設備面での課題もありますし、ヒューマンエラーの背景にある人間の心理を考慮すると、現場の安全衛生責任者のリーダーシップやコミュニケーションで改善できる部分があると思っています」

高木元也

名古屋工業大学工学部土木工学科卒。佐藤工業(株)にて建設現場の施工管理、設計業務を担当した後、早稲田大学システム科学研究所に国内留学。佐藤工業(株)総合研究所研究員、(財)建設経済研究所研究員を経て、独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所リスク管理研究センターの上席研究員、首席研究員を経て、現在はセンター長を務める。

※1 建設業労働災害防止協会
※2 中央労働災害防止協会

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