政府の号令のもと始まった働き方改革ですが、「ケンセツプラス」でもお伝えのとおり、様々な変革が求められることになります。
「一体なにから手をつければいいのか?」
「なにをするにもお金がかかってしまう……」
とお悩みの方も多いのではないでしょうか。しかし、政府も「改革しろ!」の一点張りというわけではなく、厚生労働省が働き方改革を推進している企業に、様々な助成金を支給しています。
もちろん一定の基準は存在しますが、働き方改革を進めたい企業にとっては、非常にうれしい制度となっています。また同時に建設業に対する助成金も存在しますので、今回は働き方改革に関する助成金について紹介していきます。
そもそも助成金とは?
そもそも助成金とはどういうものか、を説明していきます。国や地方自治体が推進する政策に合った企業や個人に対して一定の金額を交付する制度。「助成金」のほか、似た制度に「補助金」がありますが、厳密には異なります。
- 助成金……支給要件を満たすと、原則誰でも受け取ることが可能。
- 補助金……受け取れる会社の数に限りがあるので、申請をしても、審査に通過する必要がある。
助成金、補助金ともに返済の義務はありません。助成金は要件さえ満たすことができれば、誰でも受給できます。中小企業の経営者にとって、資金調達は常に頭を悩ませるところかと思います。助成金は返済義務もなく、様々な助成金が存在するので、自社の方針にフィットした助成金があると大きな助けになります。
受給要件と受給時期について
基本的に受給対象となるのは、それぞれの助成金の要件を満たす必要があります(代表例は後述)。例えば、非正規労働者を正規雇用した場合に助成金が発生する「キャリアアップ助成金」ですと、正規雇用に転換して6カ月の経過が必要になり、その後の支給申請となります。
どのような変革が助成金の対象になる?
助成金の多くは、厚生労働省管轄が多く雇用保険を財源とした給付金になります。代表的な助成金として、長時間労働の是正や年次有給休暇の取得推進を要となる「時間外労働等改革助成金」。先述の非正規労働者を正規雇用へ転換した場合の「キャリアアップ助成金」、従業員のスキルアップや技能向上を支援する「人材開発支援助成金」などを挙げることができます。
つまり、同一労働同一賃金や残業時間の削減、キャリアアップ、多様な働き方など政府が掲げる「働き方改革」に連動したものが多くなっています。
では、代表的な助成金の支給額を、次項にて紹介します。
こんなにお得、助成金の具体例
助成金の概要を説明してきましたが、「実際にどのくらい支給されるの?」はもっとも気になるところではないでしょうか? いくつか具体例を挙げます。
キャリアアップ助成金
前述の「キャリアアップ助成金」の「正社員化コース」の支給額は、以下のようになります。
中小企業 | 大企業 | |
---|---|---|
有期雇用→正規雇用 | 57万円 (72万円) |
42万7,500円 (54万円) |
有期契約→無期契約 | 28.5万円 (36万円) |
21万3,750円 (27万円) |
無期契約→正規雇用 | 28.5万円 (36万円) |
21万3,750円 (27万円) |
※()内は生産性要件を満たした場合 ※1年度1事業所あたり20人まで申請可能
有期契約労働者を正規雇用労働者等に転換した場合、上記の額が一人あたりに対して支給されます。つまりもともと非正規から正規へ転換する計画がある場合、繰り返しになりますが返済の義務もないため、デメリットはほとんど存在しないと言っていいでしょう。
時間外労働等改善助成金(時間外労働上限設定コース)
36協定の延長する労働時間数を短縮して上限設定を行い、達成した成果目標に応じて、対象経費の補助率が定められており、1企業あたり上限200万円を支給されます。申請の締切は平成30年(2018年)12月3日(月)必着となります。
労働生産性を上げると受給額も上がる!
このように様々な助成金が整備されており、それぞれが経営上において、大きな助けとなります。さらに厚生労働省が定める“生産性要件”を満たすことで助成金の一部は割増されます。
助成金の割増の条件となる生産性要件とは?
生産性向上の条件を満たす「生産性要件」の定義は下記になります。
【生産性要件】
助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、
- その3年度前に比べて6%以上伸びていること または、
- その3年度前に比べて1%以上(6%未満)伸びていること(※)
(※)この場合、金融機関から一定の「事業性評価」を得ていること
☞「事業性評価」とは、都道府県労働局が、助成金を申請する事業所の承諾を得た 上で、事業の見立て(市場での成長性、競争優位性、事業特性及び経営資源・強み等)を与信取引等のある金融機関に照会させていただき、その回答を参考にし て、割増支給の判断を行うものです。 なお、「与信取引」とは、金融機関から借入を受けている場合の他に、借入残 高がなくとも、借入限度額(借入の際の設定上限金額)が設定されている場合等 も該当します。
厚生労働省「労働生産性を向上させた事業所は労働関係助成金が割増されます」より引用
次に、「生産性」の計算式を紹介します。
上記の図のように、企業の場合、付加価値は「営業利益」+「人件費」+「減価償却費」+「動産・不動産賃借料」+「租税公課」の式で導くことができます。企業会計基準を用いることができない事業所については、 管轄の都道府県労働局に問い合わせてみましょう。 また「人件費」について、「従業員給与」のみを算定することとし、役員報酬等は含めないこととしています。
助成金の受給要件は勤怠管理にあり!
助成金の概要とメリット、労働生産性をあげることによって、さらに受給額があがることを説明してきました。とは言え、もちろん助成金は誰もが受給できるわけではありません。助成金の種類によって受給要件は異なりますが、助成金全般に共通した受給条件が存在します。ここでは、受給条件を説明します。
【共通要件】
- 過去に助成金の不正受給はない
- 性風俗関連事業ではない
- 暴力団関係者ではない
- 直近6カ月間に会社都合での解雇をしていない
【保険関係】
- 雇用保険に加入している(1週20時間以上かつ31日以上雇用される方は加入対象です)
- 労災保険に加入している(労働者が一人でもいる場合加入)
- 社会保険に加入している(個人事業主かつ労働者が5人未満の場合は加入義務なし)
- 労働保険料の滞納がない
【就業規則】
- 就業規則・賃金規定がある
- 就業規則を労基署へ届出している(10人以上は必須)
建設業で注意したい項目は、【共通要件】の「直近6カ月に会社都合での解雇をしていない」でしょうか。その他に関しては、大きな障害にはならないと思いますが、助成金受給を検討している場合には、「会社都合での解雇」は十分に気をつけるようにしておきましょう。
各種保険や就業規則に関しては、基本的には企業に義務付けられているものですので、問題ない項目かと思います。
【労働基準法】
- 割増賃金は適正に支払っている
- 勤怠管理を行う必要性がある
- 労働時間を適正に把握している
- 過去1年以内に労働基準法違反はない(労基署の調査等是正指導の有無)
- 36協定を締結し労働基準監督署へ提出している(残業、休日出勤がある企業は必須)
多くの企業のハードルとなるのは、こちらの項目になるでしょう。しっかりと労働時間を把握しているのか? 残業があった場合、割増賃金は支払われているのか? 36協定を従業員と締結して労基署に提出しているのか? つまり勤怠管理は正確かつ適正に行われているのかどうかが問われます。
「ケンセツプラス」では、「働き方改革関連法」の成立にあたり、勤怠管理の重要性を指摘してきました。36協定や勤怠管理について詳しく知りたい方は下記のリンクを御覧ください。
◎建設業は働き方改革関連法案でどう変わる!? 〜36協定と勤怠管理について〜
【帳簿関係】
- 出勤簿又はタイムカードがある(割増賃金支払いおよび勤怠管理のために必要)
- 賃金台帳がある
- 労働時間を適正に把握している
- 雇用契約書や労働条件通知書がある
労働者名簿、賃金台帳、出勤簿の3つを法定三帳簿と言います。企業が整備・管理することが義務付けられており、今後は厳密さが求められています。詳しくは、下記をご確認ください。
◎より厳密さが求められる法定三帳簿(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿)の書き方
こちらの記事もおすすめ!建設業界の働き方を考える
◎建設業は働き方改革関連法案でどう変わる!? 〜36協定と勤怠管理について〜
◎より厳密さが求められる法定三帳簿(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿)の書き方
◎労務安全書類(グリーンファイル)の作成ガイドまとめ
◎覚えてしまえば実はカンタン!?「作業員名簿」作成ガイド
◎一次下請負業者が作ればOK!すぐわかる「下請負業者編成表」の書き方
◎重機を安全に使用するために必要不可欠!「持込機械等〔移動式クレーン/車両建設機械等〕使用届」作成ガイド
◎初めてでも安心!簡単!「火気使用願」の作成ガイド
◎工事現場の安全に欠かせない「安全衛生計画書」記載のポイント
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