機能性、デザイン性の高さから建設現場から大きな支持を得ているアシックスのプロテクティブスニーカー、ウィンジョブシリーズ。今日も日々、皆さんの足元を守ってくれています。しかし、ウィンジョブがどのように開発されたか、その機能性の高さの秘密などは、意外と知られていません。
今回は、アシックスジャパン株式会社を訪れ、ワークプロダクト事業部 マーケティング部 マーケティングチームの飯島健次さんに、ウィンジョブの開発秘話や機能、デザインのこだわりをお聞きしました!
スポーツシューズもワーキングシューズも、設計コンセプトは変わらない
――アシックスはいつからワーキングシューズの開発を始めたのでしょうか。
飯島様(以下、飯島) ワーキングシューズの企画がスタートしたのは1999年です。当時の法人営業部は企業スポーツに出入りしているメンバーが多く、ユニフォームや靴を手配している中である企業様から滑りにくい靴がほしいというご要望がありました。
その当時から安全靴をスポーツ用品メーカーが作ったらどうなのかという話はありました。会社の理念の中で、“すべてのお客様に価値ある製品・サービスを提供する”があります。それに基づき、スポーツをする方がターゲットだったのを、すべてのお客様を広くとらえようということになり、プロテクティブスニーカーの開発に着手することになりました。そして共同開発で先芯のないグリップ性を重視したプロテクティブスニーカーの第1号となる『ウィンジョブFFR300』を発表したのが2000年になります。
――スタートした当初の売れ行きはいかがでしたか?
飯島 当時の話を聞いたのですが、アシックスストライプという我々のアイデンティティが入っている靴を持っていくだけで門前払いだったみたいです。当時は、マークが入っているだけで断られていたんですね。
●HISTORY OF THE アシックス WORKING SHOES
――だいぶ時代が変わりましたね。スポーツシューズで培ってきた知見や経験をワーキングシューズのほうでも活かす一方で、スポーツシューズとワーキングシューズの違いも生まれてきたのではないかと思います。スポーツシューズにもワーキングシューズにも活かせたことや、逆にワーキングシューズに活かせなかったことはありますか?
飯島 基本的にスポーツシューズだから、ワーキングシューズだから、という区分けは会社の中ではないんです。
――どういうことでしょうか?
飯島 アシックスには靴作りの設計コンセプトに、8つの機能と呼ばれる、目的に合わせた機能を基本に商品を企画するという考えがあります。8つの機能とは、クッション性、グリップ性、通気性、屈曲性、軽量性、安定性、耐久性、フィット性です。スポーツによって必要な機能は変わるため、どの機能を特化するのかで、この八角形が変わってきます。8つの機能のバランスを考えることからすべての靴作りはスタートするのです。
このコンセプトを、ワーキングシューズの開発でも踏襲しています。つまり、トップアスリートが使っている靴であってもワーキングシューズでも、設計コンセプトは一緒だということです。ワーキングシューズは、特に安全性というJISやJSAA(日本保安用品協会)の規格があるので、それに準拠した安全性をプラスしていますが、特にワーキングシューズだからこうだ、という発想はないのです。

――ワーキングシューズでも、建設業、製造業、介護施設などの特性をリサーチして、八角形のバランスを考える。さらに建設業でも、左官や鳶、型枠など職種によって変化する、ということですね。
飯島 そうですね。さらに具体的に言うと、例えば静電気帯電防止機能がほしい靴だったりとか、耐踏抜き性が必要な靴など、職種によって決めていきます。
ウィンジョブの進化するフィットシステム

――8つの機能は一番肝となる部分だと思いますが、バランスをどのようにリサーチされていますか?
飯島 建設業といっても職種がたくさんあります。また日によって作業は異なります。そのため大きく素材とカッティングとフィッティングを分けて考え、その組み合わせでバランスを調整しています。素材だと、合成繊維、いわゆるメッシュと呼ばれる素材と人工皮革、そして天然皮革があります。さらにローカット、ハイカット、半長靴の3つのカッティング。そしてフィッティングには、紐タイプ、ベルトタイプ、Boa®フィットシステムがあります。それぞれ特性がありますが、すべてJSAAの認定をとっているので、ご自身のスタイルに合わせてもらうというスタンスになります。
例えば、この靴はこういうターゲットに向けて作ります、というコンセプトは出します。しかし、結果として出来上がった靴をどなたに使っていただくかというのはユーザーに託しています。
――職人の方もそのときの作業によって履き替えるという方も多いです。雨の日はグリップが効く、半長靴タイプとか。
飯島 建築業の方でもくるぶしを絶対に守りたいという人もいるし、逆にかがみこみ動作が多いのでハイカットは作業がしにくいので嫌だという人もいる。個人の好みもありますので、我々もこの業種にはこれだ、とはあえて明言していません。
――紐タイプでは踏んづけて転倒につながったり、火を扱うと燃えてしまったりする危険もありますね。
飯島 火を使う現場だと、メッシュは採用できないという方は確かにいらっしゃいます。その場合、天然皮革や人工皮革を選んでもらえるように、選択肢のバリエーションを広くとることによってご自身に合ったものをご用意しています。例えば水回りの作業が多い方は、ゴアテックスファブリクスを使用した防水性の高い靴を選ぶ方が多いですね。

――2019年2月にはBoa®フィットシステムを採用した新しいシリーズも発売されました。
飯島 これまでランニングシューズには採用していましたが、ワーキングシューズでは初めてになります。Boa®フィットシステムは、紐とベルト以外で実現したフィッティングです。我々はスポーツ用品メーカーなので、社内に蓄積された足形データも膨大にあり、フィッティングには強いこだわりを持っています。スポーツ用品メーカーとしてフィッティングの重要性を啓蒙しなくてはならないのですが、建設業の方々はいちどフィッティングをしてしまうと、毎回、紐を結び直したり、ベルトを締め直すといったひと手間をされる方があまり多くないんですね。
<ウィンジョブCP304 Boa>
――確かに毎回紐靴やベルトを調節しないで翌日もそのまま履いてしまうことがあります。
飯島 毎回、締め直したりするのは意外と簡単ではありません。しかしBoa®フィットシステムは履く際には必ず緩める必要があるので、ある意味では毎回強制的に締め直しをします。つまり、常にフィッティングが良い状態をキープできます。それは安全性に対しても非常に重要なことだと私たちは考えています。パカパカの状態の靴で歩いていたらつまずいてしまったり、その他の機能の効果も期待できなくなります。フィッティングがキープされていれば運動性能も上がるので、作業効率も良くなるはずです。そのことを今回のBoa®フィットシステムでアピールできたので、スポーツ用品メーカーが作るワーキングシューズが一歩進んだと思っています。
将来的にはウィンジョブで“つま先から頭”まで守る!

――商品名には、203、301、601などナンバリングがついています。ナンバリングには意味がありますか?
飯島 今の商品はCPシリーズがメインです。CPシリーズでいくと100番台が人工皮革とメッシュ素材(合成繊維)のコンビネーション。200番台がメッシュ素材をメインで使っているタイプ。300番台になると人工皮革がメインになります。400番台は半長靴のタイプ。500番台は、アシックスストライプがないタイプです。現場でスーツを着用する現場監督用のシューズで、スーツにも合うようにアシックスストライプをなくしたデザインになっています。600番台は防水系、700番台が天然皮革を使ったものになります。
アシックスのナンバリング | |
100〜 | 人工皮革とメッシュ素材のコンビネーション |
200〜 | メッシュ素材メイン |
300〜 | 人工皮革メイン |
400〜 | 半長靴タイプ |
500〜 | アシックスストライプがない |
600〜 | 防水系 |
700〜 | 天然皮革 |
――そういうカテゴライズになっていたのですね。以前の安全靴のイメージだと鉄板が入っている無骨な靴というイメージでしたが、最近は非常にデザイン性も高い。ウィンジョブシリーズもこういった機能性はもちろん、デザインが好きだという方も多いですね。
飯島 視覚的にかっこよくないと今はモノが売れない時代なので、デザインにはこだわっています。安全靴というと、ぼてっとしていてあまりかっこよくなかったのですが、今のワーキングシューズはバスケットボールシューズと見間違えるような、スタイリッシュなデザインに仕上げています。同時に安全性についても妥協はしていません。例えば、Boa®フィットシステムを採用したウィンジョブCP304は「足を守る」というコンセプトのデザインテーマを持っていて、実は甲冑をイメージして設計されました。
――メンテナンスや手入れに関して、アドバイスはありますか?
飯島 これは靴全般に言えることですが、靴も休ませてあげるのが重要です。本来は1日おきとかで履き変えてもらったほうがよいのですが、ワーキングシューズではそういうわけにもいかない面もあり、可能なかぎり耐久性は考慮して作っています。ただ、長持ちさせるためには休ませてあげたほうが靴は喜びますね(笑)。
――そういった意味では、雨の日に履くものなど、履き分けができるといいかもしれませんね。
飯島 現場の状況や天候は当然変わるので、使い分けるのはよいと思います。最近、雨の日はゴアテックスの靴を履くという方が多いですね。
――消耗による買い替えのタイミングはありますか?
飯島 CPシリーズのソールにはスリップサインがあります。自動車のタイヤと一緒で浅い溝が消えたら(スリップサインについて詳しくはこちら!)変え時になります。ソールはそれで見極めてください。あとはアッパーに穴が開いてしまったり、破けてしまったら作業靴としては致命的なので、変える必要があります。
――では、最後に今後の展望を教えてください。
飯島 現在、インナーウェアは展開していますが、ユニフォームはまだ発売していません。“head to toe”という“頭からつま先まで”という展開をしているブランドが多いですが、我々には靴があります。だから、“toe to head”。足から入っていき、頭までの商品を出すことができればいいですね。
――ヘルメットまで開発するということですね。
飯島 野球のヘルメットはすでに開発しているので、知見はあります(笑)。将来的には、“つま先から頭”をアシックスで揃えていただけるようにがんばります。
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