日本式建築の海外技能者育成に挑む! in ミャンマー後編〜左官・レンガとRC型枠・鉄筋〜

前回のものつくり大学 三原 斉教授の記事につづき、ミャンマーにおける日本式建築技能者育成の現状をお届けします。
 
ミャンマーのヤンゴン市にある建築技能訓練校であるスキルズトレーニングセンター(以下STC)に創設された「日本式建築技能者育成コース」は、国際協力機構(JICA)が政府開発援助(ODA)として実施する「ミャンマー国建築技能訓練校設立及び技能認証制度の普及・実証事業」の一環として、2016年12月からスタートしました。
 
コースは、『RC型枠・鉄筋』『左官・レンガ』『CP木造建築』の3つ。今回は、『左官・レンガ』コースで、教育を担当した鈴木 光さんと西村眞一さん。そして、『RC型枠・鉄筋』を担当した堀江弘道さんにお話を聞きました。
 

ミャンマーの工法は左官の原点!?

ミャンマーに日本式左官を教えた鈴木光氏と西村眞一氏

–ミャンマーでの指導はいかがでしたか?

鈴木 光氏(以下、敬称略)「最初に訪れたときは驚きましたね。まず道具が違うんです。鏝(コテ)の形状がぜんぜん違うんですよ。日本では中首鏝(なかくびごて)を使用していますが、元首鏝(もとくびごて)を使います」

西村眞一氏(以下、敬称略)「日本式を教えるので最初は漆喰を考えていたんです。でも、材料がないんです。いい硝石がミャンマーにはない」

–日本式の左官・レンガを教える環境ではなかったのですね。

鈴木「ミャンマーの左官工法は、“塗る”のではなく、練り鉢から材料を鏝(コテ)ですくい上げて、壁に投げつけていくのです。だから、元首鏝を使用している。投げて積み上げていく方が生産性は高いんです。」

西村「投げつけてザーッと塗るからすごい厚塗りになる(笑)。日本だとせいぜい7mmくらいの塗りですが、ミャンマーは30mmくらいなんですよ。だから水分が足りなくて、すぐにヒビが入る」

–なるほど。ミャンマーではミャンマーなりの技術が進化していたんですね。

鈴木「このような工法なのは、東南アジアではミャンマーだけなんです。ミャンマーは戦後、鎖国政策(1962-1988年)をしていたので、東南アジア諸国がヨーロッパから技術を導入していた時期に最先端の技術が入ってこなかったのではないかと推測しています。そういった意味では、ミャンマーの工法は、左官の原点とも言えるものかもしれません」
 

道具と材料づくりからスタートした訓練


 
-とは言え、指導するのは日本式の左官技術です。

西村「日本式の塗りを教えるには、中首鏝を使ってもらわないといけません」

鈴木「最初は日本から輸入することも考えたのですが、予算が合わない。日本から輸入すると、30,000チャットくらい(1チャット=約0.08エン/※2018年3月時点)ですが、現地で作ってもらうと2,000チャットで済みます」

–道具を製作する段階から始められたのですね。

西村「材料も同様でした。材料の特性と調合比を知らないんですよね。泥や粘土入っているセメントモルタルを塗るから、草が生えてきたりするんです(笑)」

鈴木「日本ではセメントモルタルに混和剤を入れて塗りやすくするのですが、ミャンマーではその知識がないため堅いままで塗って、壁面がボコボコになっている。混和剤であるメチルセルロースが必要だったのですが、どうしても手に入らない。困っていたところ、ソフトクリーム屋にあったんです(笑)。」

–えっ!?なんでですか?

鈴木「ソフトクリームには、粘りを出すためにメチルセルロースを使うんです。でも、メチルセルロースだけは売ってくれなかったので、ソフトクリームも一緒に買って譲ってもらいましたね(笑)」

–これで道具と材料は揃いました。実際に指導をしてみていかがでしたか?

西村「本当に訓練生は真面目で熱心でした。壁塗りから、柱、梁の塗り方の基本を徹底的に指導しました。とにかくモチベーションが高いので、上達が早いんです。基本的な塗りに関しては、一定のレベルまで引き上げることができたと思います。後は現場で経験を積んでいってもらいたいですね」
 

RC型枠・鉄筋のミャンマー奮闘記

RC型枠・鉄筋の講師を務めた堀江弘道氏
 
「左官・レンガ」につづき、「RC型枠・鉄筋」の指導のエピソードを、株式会社 堀江工務店代表取締役の堀江弘道さんにお伺いします。

–ミャンマーでの指導はいかがでしたか?

堀江弘道さん(以下、敬称略)「ものつくり大学では6年間教えてきましたけど、海外で教えるのは初めての経験でした。まず日本式の型枠・鉄筋を教えるには、セパレーター、ホームタイ、Pコンの3つは必要だと三原さんに伝えました。それまではベンダーもないから、人力で作業していたんです。鉄も粗悪なので、2本に1本は手で折れてしまうという状況でした」

–かなり予算がかかったのではないでしょうか?

堀江「ミャンマーは仏教国で、お金持ちの人は寄付するとうカルチャーが根付いているんです。自分の地位や財産を投げ打ってしまうような方もいるんですが、ある日『日本式で建てられた老人ホームを寄付したい』という方がSTCに来たんです」

–老人ホームを寄付するというスケールがすごいですね。

堀江「でも、それを叶えるにはホームタイとセパレーターが必要だということを説明したら、『それを輸入してくれ』という話になったのです。JICAの予算でベンダーも2台入れることができたので、設備面の環境を整えることができました。もしかしたら、STCが今後ミャンマーの鉄筋の基地になるかもしれません」

–皆さん、一様にミャンマーの訓練生は真面目だと仰ってますが、堀江さんも同意見ですか?

堀江「訓練生を日本に連れて帰りたいくらいです(笑)。仏教国であるためか、真面目で学びたい、吸収したいという姿勢が本当に素晴らしかった。でも、日本式の型枠・鉄筋は、彼らにとって当然初めてなので、日本がどのように進化していったか、をビデオで教えたりしましたね」

–日本の鉄筋の歴史みたいな内容ですか?

堀江「東日本大震災の映像です。日本も最初は型枠・鉄筋もいい加減でしたけど、天災が起きるごとに改良を重ねていった経緯があります。型枠・鉄筋は建物が完成した際には、その成果は見えませんが、みんなの安全を守る大事な仕事だということを伝えたかったのです」

–建物の基準もかなり曖昧だと伺っています。

堀江「役人に袖の下を渡せば、どうとでもなってしまうんですね。ですから、まず型枠そのものが彼らにとっては未知のものでした。ホームタイとセパレーターがあっても、これが何のために使うのかがわからない状態でした」

–「左官・レンガ」と同様ですね。

堀江「安全意識を徹底的に教育しながら、基本を繰り返し学ばせました。正直、レベルは高いです。敷地が広いので、ものつくり大学ではできなかったこともミャンマーではできているんですよ。こういった教育を日本でもやりたいですね(笑)」
 

ミャンマーが秘めた大いなる可能性

ミャンマーの市街地
 
今回は、ミャンマーのSTCで行われている日本式技能者教育のなかから、「左官・レンガ」「RC型枠・鉄筋」の2コースについて、その経過を紹介しました。

建設業の人手不足を解決する手段として、海外からの建設就労者の受け入れがありますが、まだまだ体制や制度も万全とは言い難く、実際の戦力になるのか?という不安もあります。

二度に渡って紹介したミャンマーでの日本式建設技能者教育でわかったのは、指導に携わった方々みなさんが「日本に連れて帰りたい」と言うほどの訓練生のレベルの高さと真面目で熱心であるという特性です。

まだビザの関係上、ミャンマーから建設就労者を受け入れるのは難しいですが、今後の受け入れはもちろん、STCの修了生が日本式の建築技能を広めることでのミャンマー建設業界全体の底上げ、そして、日系企業の現場での貢献など、間接的、直接的に日本の建設業界と関わる機会が今後増えてくるのではないでしょうか。

このような技術支援が巡り巡って、自国の利益にも繋がるという視点を持っていくことは必要なことではないでしょうか。

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