先人の情熱が“私達が暮らす社会”を作った、湯島の建築資料館で得る仕事のモチベーション|ケンセツタンボウ

仕事を続けていると、「この仕事が誰のためになるんだろう?」「何年も同じことを繰り返している気がする」と思ってしまいモチベーションが上がらない時もあります。

モチベーションを高める方法は、仕事の意義や目標を見直してみる、新たな人やものと出会いさらに高い目標を設けるなど、様々なものがありますが、先人の残した仕事の痕跡に触れて刺激を受けることも方法のひとつ。

今回は、先人の仕事の痕跡に触れる方法として、今回は東京の湯島にある「文化庁国立近現代建築資料館」に行ってみましょう。

建築現場で働く人ならば毎日のように見ることも多い図面。これを集め展示している「国立近現代建築資料館」では、坂倉準三や吉阪隆正などの建築家のものを中心に、様々な図面が展示されています。

これらの資料からは、「新しい建築様式を作りたい」「人々の豊かな暮らしをつくりたい」など、先人の仕事に対する情熱を感じることができました。その熱に触れて、モチベーションを上げてみませんか?

国立近現代建築資料館とは?

千代田線「湯島」駅から徒歩10分。旧岩崎邸に隣接する国立近現代建築資料館は、文化庁によって平成24年に設置された近現代の建築資料を保存する資料館です。

この資料館が設立された背景には、建築資料の消失や、海外への流失が多発していたことがありました。

先人の残した建築資料は後世の建築業者や建築を学ぶ学生にとって学ぶべき点が多いもの。また、建物が老朽化した際の修理・修復にも役立ちます。この資料館では、後世のために集められたこれらの資料の一部を見ることができるのです。

収集・保存・研究の対象になる資料は図面だけではありません。資料には「完成後の写真」「構想段階のスケッチや模型」「手記」も含まれ、多いものではひとりの建築家で約4万もの膨大な点数が収められています。

緻密な線で書き込まれた、美術品のような図面やスケッチ


▲坂倉準三 出光興産給油所関連施設 松山出張所 透視図

ケンセツプラス編集部が資料館を訪れた時は、年に2回行われる展覧会の春季展が始まった直後。2017年9月10日まで行われる今回の展覧会で見ることができる資料は、ル・コルビュジエ(※1)のアトリエで学んだ坂倉準三や吉阪隆正の資料や、メタボリズム(※2)グループの一員でもあった大髙正人のものが展示されています。

※1 フランスで活躍した建築家で、「近代建築の三大巨匠」に数えられる。日本では世界遺産にもなった上野の「国立西洋美術館」などを設計した

※2 建築家の黒川紀章・菊竹清訓ら、1959年の日本で活躍していた若手建築家が開始した建築運動。社会の変化や人口の成長に合わせて有機的に成長する都市や建築を提案した

展示室には建築家ごとにそれぞれブースが設けられ、構想段階の透視図やスケッチ、構造計算の計算表まで、建築家の残した資料がところ狭しと並べられていました。

これらの資料は、いずれも高度経済成長期に向かう最中の1950年代半ばから1960年代にかけて作成されたものです。当時は図面作成も手書きの時代。わずか数ミリの肉筆の線で丹念に書き込まれた資料からは、新しい建築を生み出そうとする建築家たちの熱意が感じられます。



▲吉阪隆正+U研究室 ヴェネツィア・ビエンナーレ日本館 1階平面図 上:詳細 下:全体


▲坂倉準三 出光興産給油所関連施設 長浜出張所 透視図

建築は、美しいだけでは成り立たない

戦後活躍した大髙正人の展示ブースでは、均等にグリッド(マス目)が引かれた設計図を見ることができました。



▲大髙正人 南郷町農業協同組合会館 上:本館展開図 下:本館1階平面図

このグリッドは現場のコンクリート打ちを合理化するため、全て900mmの幅で統一されて描かれたもの。このように、長さが統一されると、現場で建築物を施工する時にスピーディにミスなく作業を行いやすくなります。

建築物は必ずしも美しさのみを追求するものではなく、納期や費用など、様々な制約のなかで生まれるものです。グリッドにより規格が統一された設計図は、作業の効率化をはかり、コストダウンや納期の短縮化をねらった大髙の創意だと言えるでしょう。

大髙の資料のなかでも特に興味深いのは、窓枠や開口部に関わる設計図です。


▲大髙正人 片岡農業協同組合 開口部詳細図より一部拡大

この図面が描かれた1964年当時は、アルミサッシなどの工業製品は長さや重さなどの規格がメーカーごとにバラバラで、まだ統一されていなかった時代。建物に使われるサッシはひとつひとつ設計され、職人さんの手によって作り出されていたそうです。

できるだけ快適に便利に、かつコストは安く、できれば使い心地もよく。建築物は工業製品に似た使命があります。その使命を果たすための創意工夫を設計図から読み解くことができるのです。

残されたスケッチや手紙から建築家の人柄を知る

国立近現代建築資料館には図面や透視図だけでなく、建築家が学生時代に手がけた作品や習作も展示されていました。今回展示されていたのは、渡辺仁(※3)が描いたスケッチです。

※3 大正・昭和戦前期を代表する建築家で、原美術館や銀座和光ビルなどを設計した



▲渡辺仁 欧米視察時の資料 上:イギリスの建築系雑誌のスケッチ 下:手紙とスケッチ

そのなかには、若くして欧米に洋行した渡辺が母に宛てた手紙も含まれていました。
当時はまだまだ日本が諸外国に追いつこうと奮闘していた時期です。先進的な欧米は刺激に溢れていたのでしょう。手紙の文字から、渡辺が興奮気味に現地の様子をつづる様子が読み取れます。

私たちの生活の礎をつくった建築家もひとりの人間です。残されたスケッチや手紙からは、明治から大正に生きた「渡辺仁」という人間の人柄を感じることができました。

「無数の図面」から「私たちの街並み」は作られた

普段街を歩くと、お店や駅、家やオフィスビルなど、大小様々な建物を見ることができます。それらは全て建築家が図面を引き、現場で働く人々の手で作られ、メンテナンスを行われながら使われ続けてきたものです。

今回資料館に展示された資料を見ると、現在の街並みがあり、人々の生活が支えられていることは、建設業に関わってきた先人たちのおかげなのだと改めて認識させられます。

建築業に関わらず、私たちの仕事は、大なり小なりなにかしらの形で社会に影響を与えているものです。それは形のあるなしに関わらず、後世に影響を残しています。

皆さんも、お時間があれば国立近現代資料館に足を運んでみてください。先人たちが残したものを見れば、きっと仕事を続けるモチベーションが上がっているはずです。

<施設データ>

国立近現代建築資料館
東京都文京区湯島4-6-15 湯島地方合同庁舎 新館
Tel.03-3812-3401

※平成29年9月10日(日)まで「平成29年度収蔵品展」を開催中(入場無料)。
入館方法についてはホームページ(http://nama.bunka.go.jp/)を御確認ください。

ケンセツタンボウシリーズ

第1回 築40年を超え、新しい命を吹き込まれた名建築物“中銀カプセルタワービル”
第3回 新施設が誕生!進化し続ける富士教育訓練センターの20年の歩み
第4回 建築模型の美しく緻密な世界。「建築倉庫ミュージアム」で楽しむアート

 

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