なぜ今、建設業界に「女性活躍」が必要なのか?

「一体、女になにができるんだっ!?」

一昔前、日本の建設業界では、現場に女性がいようものなら、男性からこんな言葉を投げかけられたと言います。

そのような偏見は少しずつ解消されてきているとは言え、まだまだ建設業界は女性が働きやすい環境とは言えません。

なぜ女性の入職が必要なのか?
それは男性だけではない多角的な視点によるダイバーシティ化の必要性や担い手確保などが大きな理由の一つです。

そのため、国土交通省と建設5団体は、平成26年8月に「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」を発表しました。以降、官民を挙げて女性の入職・定着・活躍を加速化すべく様々な取り組みが行われています。

今回は、「建設産業女性セミナー全国大会」の取材を通じて、女性がもっと活躍できる建設業界とは?を検討していきたいと思います。

なぜ建設業界は女性が働きにくいのか?

コーディネーターを務めた籠田氏

まず登壇したのが、籠田淳子(こもりた じゅんこ)氏。「建設産業女性活躍セミナー」は全国大会が開催される前に、全国10都市で開催され、合計532名が参加。籠田さんは、すべての都市でコーディネーターを務めており、これまでの統括を発表しました。

籠田淳子
(有)ゼムケンサービス代表取締役。「女性力をビジネスに!」を掲げ、社員8名中6名が女性という組織構成で、男性中心の建設業の中で多様な価値観を取り入れた活動を再開。2013年 内閣府「女性のチャレンジ賞」、2014年 経済産業省「ダイバーシティ経営企業100選」、2015年 第1回内閣府「女性が輝く先進企業」、2016年(公財)日本生産性本部「第9回ワークライフバランス大賞」奨励賞を受賞。

実際に籠田さんが各都市でヒアリングした現場の声をまとめたレポートから代表的なものをまとめてみました。

【入職に対する体験談】
●3Kなどの悪いイメージが先行している
●建設業界自体が閉じていて、変化していることを世の中に伝えられていない
●職業選択時に両親の意見によって左右される

様々な取り組みをしているのにも関わらず、世間に知られていないというのは今後の業界をあげた取り組みが必須かもしれません。

例えば、「建設=力仕事」という固定概念も強く、システムや管理など大半は力仕事ではないことを知ってもらうなど具体的なPR案もあったとのことです。特に古い建設業界のイメージが強く残っている親の世代の影響は無視できません。

【定着に対する体験談】
●出産、育児とは両立できないというイメージ
●性別での役割分担の意識がある
●トイレ、待機所など女性専用の設備がない
●材料、工具の重量や大きさが女性向きではない
●男性が女性をどう扱えばいいのか理解していない
●セクハラ、パワハラの横行

建設業界で働く女性ならば経験のある方も多いかも知れません。また男性ならば、“男性が女性をどう扱えばいいのか理解していない”というのは、非常に悩ましい問題でしょう。

「男女変わりない対応では乱暴。女性を特別にする様な言動では女性蔑視」

と言われてしまうとどう対応しても、男性が悪者になってしまうようなことになりかねません。

しかし、籠田さんはこう言います。

「妊娠、出産、子育てという女性のライフステージは、男性が無関係なわけではありません。当然、男性特有のライフステージの変化も存在します。これは女性を特別視しろということではなく、男女のギャップを理解しようということです。男性には得意の分野があり、女性にも得意な分野があります。私が経営するゼムケンサービスは商業施設を中心に設計やデザインを手がけていますが、女性の視点が非常に好評をいただいています。女性の活躍は経営戦略上、すごく大事なんです。“女性力”“男性力”を明確にして、相互に能力を発揮できるような業界にすることが必要です」(籠田淳子氏)

この発言は、以前に「ケンセツプラス」で聞いた女性職人が活躍している原田左官工業さんのお話と共通します。

◎原田左官工業の女性活躍と働き方改革

担い手不足はいまや建設業だけではなく、全産業の課題と言えるでしょう。より人材確保が難しくなる今後に向けて、働きがいのある業界、働きやすい業界といった環境整備と情報発信は急務です。

建設業の女性団体はどのような活動をしてきたのか?

建設業の女性団体の活動報告の様子

つづいて、建設業で女性活躍を推進する各団体が紹介されました。
以下の6団体になります。

・(一社)日本建設業連合会 けんせつ小町部会
・(一社)土木技術者女性の会
・(一社)建築設備技術者協会 設備女子会
・(一社)日本造園建設業協会 女性活躍推進部会
・日本建築仕上学会 女性ネットワークの会
・全国低層住宅労務安全協議会 じゅうたく小町部会

各団体が、団体の目的、概要、活動を報告。「ケンセツプラス」でも取材にご協力いただいた「じゅうたく小町」も紹介されました。

◎「じゅうたく小町」インタビュー

中小企業に所属している女性は、なかなか悩みや相談をしずらい環境にあります。環境整備や外から見た建設業のイメージ悪さへの対策、女性同士の悩みの共有など、会社を越えて連携している各団体の存在は、非常に大きなものと言えるでしょう。

これから就職を考える女性の大多数が、「女性は建設業では活躍できない」という固定概念を持っており、最初から選択肢に入りにくいことは大きな問題と言えますが、このような団体を通じて、建設業に働いている女性との接点が増えることで、先入観を崩すことができます。

つづいて、現在建設業で活躍している女性6名によるパネルディスカッション「建設業における女性活躍の加速化について」が行われました。

現役女性社員によるパネルディスカッション

建設業に所属する女性社員によるパネルディスカッションの様子
参加者は、東北、四国、九州、沖縄など全国から、それぞれゼネコン、ハウスメーカー、造園業、土木業に従事する6名。加えて、コーディネーターである籠田さんと国土交通省 建設流通政策審議官の青木 由行氏の8名で行われました。

最初に籠田さんが参加者に建設業に入職したきっかけと問いかけると、面白い結果が出ました。なんと家族が建設業で働いていたからと答えた方が4名。他2名も子供の頃から「家具や新築住宅の広告を見ることが好きだった」「住宅関係の仕事に就きたいと思っていたから」という理由でした。

つまり悪いイメージや先入観がなく、建設業に携わりたいと思い、今に至るのです。高校生や中学生に対するアプローチをつづけるなかで、「もっと幼少期から建設業のPRをしなくてはいけない」という意見が昨今目立つのは、こういった理由が背景にあります。

菅原綾子さんの発言する様子<株式会社内藤工務店所属の菅原綾子氏/施工管理>

つづいて、入職した際の建設業のイメージに対しては、父親が施工管理をやっており、幼い頃から現場に出入りしていた菅原綾子氏はこう言います。

「建築の専門学校に通っていて、就職の時期に親には設計に行くと伝えていたのですが、私はどうしても現場に出たかったんです。だから、親に内緒で施工管理で就職しました。すごく怒られましたね(笑)。子供の頃は感じませんでしたが、やはり男性が怖いイメージがありました。ヘルメットをしているので、表情が見えませんし、体も大きいので」(菅原綾子氏/施工管理)

そのコメントを聞いた籠田さんは、自身の体験を披露しながら、建設業の古い体質を変える必要性を訴えます。

「私も大工の娘でした。必死に勉強して、一級建築士になったのですが、小さい頃から『女は棟上げにあがっちゃいけない』と言われて育ったんです。いくつもの現場をこなしていくうちに認められるようになって、ある日現場の棟梁に『あがっていいよ』と言われたときは、嬉しくて泣いてしまった」(籠田淳子氏)

そのような建設業も現在では変わりつつあることを皆さんが実感しているというポジティブな意見も目立ちます。

建設業が変化していることを、業界外には伝わっていない

パネルディスカッションで発言する角崎氏

ポジティブな意見で目立ったのは、環境整備に関するものが多くなっていました。なかでもトイレに関しては、参加者全員が独自の意見を述べ、白熱しました。

「入社当時は、現場の仮設トイレが男女共用でしたので、あまり使いたくなかったです。でも、いまは女性専用の設備が多くなっているのでうれしいですね」(當間ありさ氏/オペレーター)

といった意見や

「男性と一緒の詰め所ですが、部屋を分けてトイレも別にしています。所属会社(大成建設株式会社)では、ベビーシッターの補助金があったりと育児にも協力的になり、子どもの行事や病気になった際に取得できる看護休暇もあります。しかし、全国的に普及はまだまだです」(角崎由貴子氏/工事主任)

以前は女性専用の環境が整備されていなかったことを考えると、大きな前進をしていると言えます。しかし、だからこそ見えてきた課題もあります。

女性用簡易トイレ「住宅の現場ですと、狭小地がどうしても多くなってしまいますので、トイレを二台設置するスペースがありません。また工期も短いので、費用をかけて女性専用設備を投資する環境ではありません」(根本希美氏/施工管理)

といった予算面の指摘から、より具体的で「なるほど」と唸ってしまうような意見もありました。

「土木では、大きな現場ですとトイレやシャワーを設置できますが、地方になると資金がそこまでありません。自治体の担当者が近くのコンビニや公園のトイレに駆け込むようなこともあります。また女性だけ快適なトイレというのはよくない。そこで男性のトイレも洋式にしたのですが、そこで問題が生じました。現場によっては水が貴重になるので、トイレの掃除が行き届きにくくなります。すると、洋式は体と密着しますので、使いにくくなるのです」(村上育子氏/施工管理)

トイレ一つをとっても、これだけの意見がでるのですから、改善していく余地はまだまだ残されています。しかし、あくまで女性視点で語ってはいますが、決して「女性を優遇しろ!」という論ではありません。次項で「女性が働きやすい環境」がなぜ必要なのか、に触れてみたいと思います。

女性と男性が平等に活躍できる業界づくりに向けて

なぜ、いま女性活躍が必要なのか

いまなぜ女性活躍の推進が必要なのか?
実はこれは建設業に限った話ではありません。

平成28年に「女性活躍推進法」が施行されたため、建設業ではなく、全産業で取り組んでいる問題になります。冒頭のようにむしろ平成26年にこの問題を取り組み始めた建設業は、他産業より早く舵取りをしたと言えます。

男性社会で成長してきた建設業では、「女尊男卑」のように捉えられる方がいらっしゃるかもしれませんが、女性活躍は男性にも大きなメリットがあります。

労働人口が減少するなかで人手不足が叫ばれているのは、建設業だけではありません。日本中の企業が人材確保に躍起になっている状況です。そのようななかで、閉鎖的かつ男性的な建設業はすでに大きなハンデを背負っていると言えるでしょう。

今後、子育てや親の介護などが起きたときに、女性に関わらず男性が多様的な働き方を選択できるのか?
男女の性差はもちろん、国籍も越えて個人個人を尊重したダイバーシティ経営が可能な企業が今後生き残っていくのです。

厚生労働省は「女性の活躍推進企業データベース」も公開しており、男女別の競争倍率、女性労働者の割合、役員に占める女性の割合などが閲覧できるようになっています。

就職・転職を考えている方がこのデータを見ることで、優秀な人材はより働きやすい企業を選ぶのです。

むしろ、建設業はより女性活躍の環境整備はもちろんですが、男性の雇用形態などの見直しも必須と言えるでしょう。

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