建設業における就業規則の作り方

就業規則とは、労働時間、休日・休暇や賃金に関する事項など、働く上でのルールや労働条件を、労働基準法などに基づいて定めるべき規則のことです。

就業規則の法的な作成義務は、10人以上の従業員を雇用している企業にしか発生しませんが、労働基準法については規模に関わらず、すべての企業が遵守する必要があります。ですので、従業員規模に関わらず、賃金や労働時間、安全衛生管理に関するルールを就業規則としてきちんと明文化した上で、雇用する側とされる側の労使間で合意していないと、後々大きなトラブルのもとになる可能性があります。

また、建設業はこれまで36協定の特別条項を締結していると時間外労働に上限がありませんでしたが、「働き方改革関連法」の成立により、時間外労働の上限規制が設けられた他(建設業は2024年3月31日までの猶予期間がある)、「年次有給休暇取得の義務化」や「勤務間インターバル制度」、「同一労働同一賃金」など対応すべき項目が多く存在します。多様な働き方を取り入れ、改革を始めるためにも就業規則を見直す時期が来ているのかもしれません。

建設業界の現状と課題、雇用する側と雇用される側の現状

建設業の現状

建設業界は、1992年に市場規模84兆円という最大のピークを迎えた後、年々縮小傾向にあり、2010年には約41兆円とおよそ半分程度まで落ち込みました。その後、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、その市場規模は50兆円超まで回復してきています。

需要は回復している一方で、建設業界は深刻な人手不足問題を抱えています。さらに深刻なのは人手不足に加えて、建設業就業者の高齢化の進行です。建設業就業者の55歳以上が約34%、29歳以下は約11%という現状は、高齢化が進み、若手は増えてないことを表しています。少子化問題、高齢者の大量離職の見通し、将来的な担い手が確保できず、技術継承ができない、という悪循環に陥っています。

今さら聞けない労働基準法の法改正(働き方改革関連法)について

労働基準法改正

労働基準法とは、働く上で、労働条件の最低基準である「労働基準」を定めた法律のことをいいます。雇用する側と、雇用される側の両方を守るために策定されたものです。

使用者(事業主)が労働者を雇用する際は、労働基準法第15条により、賃金、労働時間その他労働条件を書面などで明示する必要があります。労働基準法に違反した契約については、労働基準法第13条により無効となり、無効となった部分は、労働基準法に定める基準が適用されます。

さらに2018年6月に「働き方改革関連法案」が成立。労働時間を月45時間、年360時間を原則とする、全業種に時間外労働の罰則付き上限規制の適用が開始されます(大企業は2019年4月、中小企業は2020年4月)。

◎建設業は働き方改革関連法案でどう変わる!? 〜36協定と勤怠管理について〜

ただし、建設業については、猶予期間が設けられ、法改正施行5年後の2024年4月1日から上限規制の適用が決定となりました。下記に「働き方改革関連法」で就業規則の作成・変更に影響のある項目を紹介します。

①時間外労働の上限規制
②中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金
③年次有給休暇の取得義務化
④同一労働同一賃金
⑤勤務間インターバル制度
⑥労働時間の状況把握
など

これからの建設業界の課題を解決するため、そして働き方改革の1歩として、適正な労務管理を整える必要があるのです。そこで今、雇用改善における「就業規則」の見直しが、推進されています。

人ごとじゃない!? どんな企業にも就業規則が必要な理由

就業規則が必要な理由
就業規則とは、労働時間、休日・休暇や賃金に関する事項など、働く上でのルールや労働条件を、労働基準法などに基づいて定めるべき規則のことです。

労働基準法第89条によると、「労働者10人以上の会社」つまり、常時10人以上の従業員をアルバイトやパートなど雇用形態に限らず雇用している場合、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。また就業規則の内容を変更する場合も、同様に変更の届け出が必要です。

「労働者10人未満の会社」では、法律上作成の義務はなく、提出は任意です。しかしながら、労働基準法については当然、規模に関わらず、すべての企業が遵守する必要があります。労使間で問題やトラブルが発生した時に、明確なルールがないということで対処に困り、大きな問題に発展してしまうケースも少なくはありません。

特に建設業界においては、安全・健康管理面や、労災事故防止、特有の労働時間制度、雇用形態など、大小規模を問わず特殊な業界です。それらを踏まえた上で、社内ルールの可視化、労務管理の効率化、そして労使間のトラブルを防ぐなど、小規模であっても就業規則を作成することは、雇用する側も雇用される側にとっても、双方にメリットがあることは間違いありません。

よって、就業規則が必要ない会社は存在しないということです。建設業界の現状の課題である、雇用促進を積極的に改善するためにも、労働基準法に沿った適正な就業規則を作成しましょう。

次に、具体的な就業規則作成の手順をご紹介します。

就業規則はどうやって作る? 就業規則の作り方手順

就業規則の作り方手順
では、実際の就業規則の作り方をご紹介していきましょう。就業規則の作成は、基本的に自身で作成する方法と、専門家である社会保険労務士事務所に依頼するという2つの方法が考えられます。

もしもご自身で作成する場合は、テンプレートや雛形を利用すると便利ですが、かなり専門的な知識が必要になるため、プロに依頼することが一般的です。

◎厚生労働省「モデル就業規則について」

就業規則の内容について

就業規則の内容は、すべてを自由に記載してよいわけではありません。労働基準法第89条に定められている通り、大きく「絶対的必要記載事項」「相対的必要記載事項」「任意記載事項」の3つの項目がありますので、それぞれ解説します。また作成した後には、事業場ごとに就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署に提出する必要がありますので、注意しましょう(後述)。

絶対的必要記載事項とは?

絶対的必要記載事項
①始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項
②賃金の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払いの時期並びに昇給に関する事項
③退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

「絶対的必要記載事項」は、仕事をする上での基本的なルールになります。簡単に説明すると①は労働時間に関する内容。②は賃金に関する内容、③は退職に関するルールになります。

一般企業と建設業が大きく異なる点として、繁忙期・閑散期の有無や休憩時間、拘束時間などが突発的に発生することです。たとえば、「天候の変化によって作業ができなくなった」「他業種の作業が終わるまで待ち時間ができた」などに加え、基本的に車両での移動になるため、それぞれ給与が発生する時間かどうかを明確にしておく必要があります。

前述のとおり、「働き方改革関連法」では「労働時間の適正な把握」が求められています。「残業代を支払わなかった」や「必要以上に賃金を支払った」ということがないように就業規則をもとに適切な勤怠管理をしなくてはいけません。

◎割増賃金の計算方法と勤怠管理について

相対的必要記載事項
「相対的必要記載事項」は、必ず就業規則に記載しなくてはいけない項目ではありませんが、もし下記の内容に関してルールを決めるのであれば記載してなくてはいけません。

相対的必要記載事項
①退職手当に関する事項
②臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項
③食費、作業用品などの負担に関する事項
④安全衛生に関する事項
⑤災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
⑥表彰、制裁に関する事項
⑦その他全労働者に適用される事項

任意的記載事項
その名の通り、使用者(事業主)が任意に記載することができる事項です。「就業規則の制定主旨」「企業理念・社是」「就業規則の解釈」などが記載されることが多くなっています。

専門家へ依頼・相談する

プロである社会保険労務士、弁護士に依頼するメリットは、法改正や時代背景に対応することができること、内容自体の不備や不足なく、会社の実態にしっかり合わせた内容での作成が可能です。作成は自分で、チェックだけ専門家へお願いする、という方法もあります。

◎就業規則作成を代行している社会保険労務士事務所の例:日本社会保険労務士法人

就業規則作成から届出までの流れ

就業規則の作成手順
これまで就業規則の内容について、解説をしてきました。作成・変更が行われた後は、労働基準監督署へ届出するまでに「労働者への周知」と「意見書の添付」をしなくてはいけません。 流れを詳しく見ていきましょう。

従業員への周知

従業員に就業規則の内容を周知させることが必要です。周知とは、「従業員が必要なときにすぐに確認できる状態」を指し、主に以下の3つの方法のいずれかです。

  1. 見やすい場所に掲示、もしくは備え付ける
  2. 書面にして、従業員に交付する
  3. データとして保存し、従業員がいつでも閲覧できるようにする

※就業規則を口頭で説明したり、管理職のみに周知している場合は、周知義務を満たしている事にはなりません。必ず従業員がいつでも閲覧できる状態です。

意見書の添付

「意見書」とは、就業規則を作成、変更した場合に、その内容に対して労働者側の意見を聴いた証明書のことです。労働基準法90条では、就業規則の作成・変更をした場合、労働者側の意見を聞き、書面化して提出することが義務付けられています。

所轄の労働基準監督署へ届け出をする

作成ができたら、届け出を行います。「意見書」(従業員代表者の記名・捺印)を添付し、提出します。

就業規則の義務違反

就業規則の違反
就業規則には、「作成義務違反」「意見聴取義務違反」「届出義務違反」などがあり、いずれも違反した場合は、労働基準法120条に基づき、罰則として「30万円以下の罰金」が適用される可能性があります。

就業規則の作成時に従業員の意見の聴取や、所轄の労働基準監督署への届出を怠った場合、必ずしも就業規則の内容は無効にはなりませんが、従業員への規則の周知がされていない、いつでも見られる状態にないといった「周知義務違反」の場合は、就業規則の内容が無効になる場合もあります。

周知義務違反の場合、会社は労働基準監督署から指導、是正勧告などの処分を受け、それでも改善されない場合は30万円以下の罰金が課される可能性があります。

就業規則がないことで、大きなトラブルに発展することも?

会社で働く上での明確なルールがないということは、トラブルが起きた際に、対応に困ります。10名以下の会社でも、就業規則を作成する事で得られる3つのメリットをご紹介します。

1 欠勤、退職などのトラブルを防ぐ

懲戒解雇の対応
従業員側の勤務態度、過失によるトラブルなど何らかの問題があった時に、懲戒解雇や減給、解雇などの処分が考えられます。しかしながら、会社の就業規則がない場合には、不当解雇として逆に訴えられる可能性があります。

長期欠勤者に対しての対応
傷病や精神的疾患などによる長期欠勤者への対応として就業規則に定めがあれば、トラブルなく退職させることが可能です。就業規則がない場合には、復職や退職を巡って争いが生じることもあり、不当解雇の訴訟に発展してしまうケースもあります。

身勝手な自己都合退職を防ぐ
社会人らしからぬ自己都合退職は、残念ながら存在します。突然退職の意向を伝え、引き継ぎや、会社の貸与物を返却しない、という実例も多々存在します。就業規則に定めることで、完全に排除はできませんが、懲戒処分という形を取ることは可能になります。

遅刻者・早退者への対処
建設業特有の悩みとして、現場への到着が遅れる、ないしは早退者が多いというものがあります。その日に定められた作業をこなせば問題ないという考えもあるかもしれませんが、現在は適切な勤怠管理が求められています。適切な賃金を支払う意味でもトラブルのもととなりますので、遅刻者・早退者に対して欠勤控除を設定することで、社の規律を保つことができます。ルールを守る従業員が評価されるなど当たり前の風潮を醸成できますし、社のイメージ良化にもつながります。

2 従業員の明確な待遇を提示できる

採用時には労働基準法により労働条件の明示義務がありますし、その際に多くの会社は就業規則も交付しますので、それをもとに労働条件等が可視化されます。不透明な建設業界の労働条件のイメージの一掃が可能になります。また就業規則の中に服務規律の規定を充実させることで、従業員の適切な行動のための基準ができ、作業効率のアップや業績も上がることが期待されます。

3 助成金の申請には、就業規則が必要

助成金は、融資とは異なり、返済不要のお金で、場合によっては数百万円のお金が受け取れることがあります。数多くの種類が存在し、毎年のように内容が更新されますので、条件に合うものを探して、申請できます。その際に、就業規則の提出が必須となることがあります。

◎建設業が受け取れる助成金とは? 労務・勤怠管理がカギとなる?
◎キャリアアップ助成金を受給するには?建設業におすすめの助成金をケース別に紹介!
◎社労士が説明!助成金を申請するメリットと注意点とは?

建設業の複雑な勤務の実態をどうやって把握する?

就業規則が企業の規模に関わらず必要なことを解説してきました。所定労働時間や所定労働日数などの設定、正確な賃金の支払いに必要なことがご理解いただけたと思います。

しかし、就業規則を定めたとしても、ルールに則って従業員が働いているかを正しく把握していなくては、「労働基準法に即していることにならない」「若者が定着しない」「不公平が蔓延し、従業員満足度が低下する」などのリスクがあります。

建設業では複数現場が同時進行するなど、他産業と比較して勤怠管理が難しいため、経営者や労務・経理担当の方にとっては頭を悩ませる問題ではないでしょうか。

勤怠管理は、他産業ではスタンダードとなりつつあるクラウド勤怠管理システムを導入することによって、適正な勤怠管理が可能になります。

従業員がどのくらい働き、どのくらい残業しているかという現状把握をして、課題を抽出することが、長時間労働削減と労働生産性向上につながっていくのです。

 

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