同一技能同一賃金を実現する 建設キャリアップシステムとは? 〜国土交通省の藤條さんインタビュー〜

技能者の経験や技術をデータで蓄積し、熟練の技能者に適正な処遇をする目的で、官民一体となって進められてきた「建設キャリアアップシステム」が、いよいよスタートしました。

しかし、まだ「建設キャリアアップシステム」について詳しい内容や目的をご存知ない方も多くいるでしょう。今回は、国土交通省 土地・建設産業局 建設市場整備課 労働資材対策室室長の藤條 聡さんに、「建設キャリアアップシステム」の目的やビジョンについてお聞きしました。

―2019年4月から始まった建設キャリアアップシステムですが、登録数などスタートしてみて所感はいかがですか?

藤條さま(以下、藤條)「当初の計画より半年遅れてしまいましたが、滑り出しとしては、順調に登録数は伸びつつあります。まだまだ目標には届きませんが、それなりのスタートだと思っています。

建設キャリアアップシステムは、元請企業から全下請企業までが加入しないと、就業履歴は蓄積されていきません。この現場では貯められた、あの現場では貯められないといったバラツキがあっては効果を発揮しないので、この5年間で330万人といわれる技能者全員に加入させるべく、様々な対策をとっていかないといけません。5年後には技能者がどこの現場にいっても、経験と技能が蓄積されて、評価される形にもっていくのが、我々のミッションです」

―一部だけが加入しても、建設キャリアアップシステムのメリットは発揮できない。

藤條「建設業界は、重層下請構造になっているので、建設技能者の問題については下請企業の問題だろう、という風潮がいままで強かった。しかし、下請企業の問題としてとらえてしまうと、技能者、つまり最後の作業員がいないと建設業は成り立ちません。下請企業の問題としてとらえてしまい、当事者意識がないというのは、非常に深刻な問題です。元請企業も下請企業も一体になってこの問題に取り組むことが重要です」

―下請企業では解決できない話なので、業界全体で雇用の在り方を改善していくということですね。

藤條「講演などでよくする話なのですが……童話で金の卵を生む鶏の話はご存知ですか? これは雇用している下請企業にしても、元請企業にしても、お金を生む源泉は結局、現場で汗を流している人たちであって、その人たちがいてはじめて金の卵を生むことができます。建設業は人が支えている産業であり、下請企業の問題であるとして職人を大切にしないという状態は、結局、金の卵を生む鶏を育てないで殺して食べているようなものだ、ということをいつも言っています」

―それは言い得て妙ですね。加入者を増やすために具体的にどのような施策を実施していますか?

藤條「日建連さんなんかは建設キャリアアップシステムに対して、ものすごく積極的に取り組んでもらっています。まずは普及の5年間の中でも当初1、2年くらいは日建連加盟の現場が先行していくと思いますが、それをどう地方のほうに広げていくか、だと思っています。こういうものは一定の普及のポイントを過ぎるとググっと一気に伸びる傾向があります。そういったティッピングポイントがあると思うので、そこまでどうやって早くもっていけるかが重要だと考えています。とにかくこの“鶏が先か卵が先か”という話で、メリットがわからないと取り組まないというのではなく、まずは入って、普及していくことで、メリットも後から付いてくるものだと思っています」

―当初の予定5年の中のどのあたりにティッピングポイントを置いていますか?

藤條「一般的には1〜2割に到達すると急に伸びる、と言われることがあるので、300万人の技能者を想定すると、50万人がひとつの壁になるのではないかと思っています」

建設キャリアアップシステムで“同一技能同一賃金”を実現する

建設キャリアアップによる改革
―メリットに関しては、いかがでしょうか?

藤條「例えば、技能者の労務単価はひとつで、積算では人工でしか評価されていないのが現状です。マネジメントできる技能者がいて、段取りを決めていく。職長よりもっと上の職長が、きちんと積算上で評価されていくことがまず大きな目標としてあります。

積算に反映させるためにはサンプルがないとできない。メリットが何かというより、建設業界の中で技能者のランクを4段階に分けると決めたから、その状態を定常化しサンプルを増やして、レベル4の職人はこれだけ給料がもらえるものなんだ、ということを業界として明確化すること。そうしてはじめて公共工事の積算にも反映していくことができるようになります。まずは業界が動こうということを私は講演でも言っています」

―建設業界は高齢化が進んでいます。そういった意味では、建設キャリアアップシステムは今後、日本で建設業の仕事がしたいと思っている若手や外国人へのアプローチも重要になってくるのかなと思います。

藤條「建設現場がなぜ職人の能力が適切に評価されないと言われてきたのかというと、作業現場が変わることがひとつの要因だと思います。いろいろな元請企業の現場で働いて、どれくらい経歴がある職人なのかということが把握されず、適切に評価できないことがひとつの要因なので、元請企業も下請企業も業界全体としてキャリアアップシステムに取り組もう、ということです。

そこでこの建設キャリアップシステムを導入することで、将来のキャリアパスを若い人に示すことができると思っています。技能が上がればカードの色が変わり、レベル4まで上がればこういう処遇が受けられる、ということがスタンダードになっていれば、キャリアパスも明確に描けてくるでしょうし、入職にもつながります。また、外国人にとっても日本の建設業は技能を身に付ければ報酬が上がっていく、ということが明確になりますので、優秀な外国人を獲得するという意味でも有効なのではないかと思っています」

―建設キャリアアップシステムにデータは蓄積されていきますが、今後は元請企業にデータを活用して現場管理を効率化していくような仕組みも展開されますか?

藤條「我々から社会保険をミニマムスタンダードにしようと常々言っていますが、社会保険未加入の企業には許可を与えない仕組みになります。ガイドラインで、元請企業に対して、この企業は社会保険に入っているかどうかや、この作業員が適切な保険に入っているかどうかということを確認し、未加入者は現場入場を認めないようにと指導しています。今後は、建設キャリアアップシステムで簡単に確認できることになりますので、元請企業と連携したキャリアアップシステムの活用になることは引き続きやっていかないといけません。

特定技能外国人という新しい在留資格ができましたが、今回、外国人に対する建設キャリアアップの加入は義務付けています。そうすることで国籍区別なく技能がある人は、客観的統一基準で能力を評価して処遇することが外国人を安値で雇用する状態を防ぐことになります。私たちは“同一技能同一賃金”ということを常に言っている。建設キャリアアップシステムに照らし合わせると、技能実習で入ってくるときには見習でレベル1だけど、特定技能になれば、レベル2になる。事実上、日本に永住できるようになります。長く建設業を支えてくれるように、日本人外国人区別なく同じ基準で評価して処遇するというのは、建設キャリアアップシステムに期待される役割です」

外国人労働者にも適用。人手不足解消や業界全体の改善も促進

国土交通省の藤條さんによる解説
―外国人労働者に関しては、日本の就労の状態からすると今後一定数必要というのは間違いないのでしょうか?

藤條「建設業は高齢化が進んでいます。現在、60歳以上の人が83万人くらい。これに対して30歳未満は約37万人。なぜ、これだけいびつな年齢構造になってしまっているのかというと、 建設業は長らく建設投資が縮小し続けた時期がありました。ピーク時に84兆円の建設投資だったものが、最も低いときで42兆円まで下がった時期があり、この間20年くらい縮小し続けてきました。企業からしたらリスクもあるので若い人を採用できません。その産業構造として、採用を抑制したことで若い人が入らず、ギャップが生まれたのです。

現在は、平成24年あたりから景気回復に伴い、建設投資も増えて労務単価も上がってきていて、建設技能者の賃金もだいぶ回復していますが、さらに改善していかないといけない。建設業界の人手不足の原因は処遇にあります」

―その人手不足を埋めるのが、外国人労働者ということですね。

藤條「はい。熟練の職人がどんどんやめていっていて、若い職人がいない。足元では建設業の入職は増えてはいますが、ボリューム感として全然ギャップが埋まっていません。そのギャップを埋めるために、生産性向上の取り組みを進めていますが、全然埋まらないのが現状です。ここは外国人労働者に頼らざるを得ない部分があります。

しかし、頼る以上は安い労働力で雇用するということは絶対に止めないといけないし、公平な競争環境を構築しなくてはいけません。誰かひとりでも安く仕事を取り出すと、みんながそっちに流れてしまい、ダンピングの論理(不当に安い価格で労働力や商品を提供すること)になります。建設キャリアアップシステムは、そういった処遇低下を防止する役目を担っています」

―日本で建設業に就きたいという方と受け入れたい企業の需要と供給のバランスはどうですか?

藤條「基本的には技能実習制度や技能実習を終了すると、特定活動という在留資格で2〜3年就労できる『外国人建設就労者受入事業』があります。2011年と2018年で比べると外国人の数は5〜6倍くらいになっていて、需要は高まってきています。この傾向は当分続くと考えています。企業側の求人需要は高まっているし、それに応じた外国人労働者もいます」

―規模が小さい専門工事業者は人をとりたいけど若い人がいなかったり、今は忙しいけど3年後どうなるかわからないというような現実的な悩みもあると思います。受け入れる側の注意点など、メリットやデメリットはありますか。

藤條「新しく始まるので、デメリットがないように仕組みをつくっていますが、事業者の方が一番懸念しているのは、安全確保できるような日本語能力を果たして外国人が有しているかという点と、誰かが安く雇いだすとそれだけで建設業全体の処遇が変わってしまうので、外国人労働者しか入らないような業界になってしまうという2つの点です。ご質問のように、今は良いがこれから仕事がなくなったときに解雇できるのか、帰国させることができるのか、そういう問題もあります。

外国人労働者を受け入れる場合は、必ず建設人材機構に加入する義務があります。建設人材機構が定める行動基準にも、“同一技能同一賃金”や日本語の教育をしっかりするという共同ルールを定めていて、破った企業は除名にします。そうすると在留資格の前提となる要件を失ってしまう。安い労働力で雇うことを業界全体でルール化してストップしようと徹底できたのは大きいですね。もちろんその軸になっているのが建設キャリアアップシステムであり、機構が外国人の求人・求職マッチングを行うというのも事業者ニーズを踏まえたものです」

―同一技能同一賃金が実現していくなかで、外国人も日本人の若い人も同じ待遇で健全な競争が生まれますね。その一方で、だったら日本人のほうが良いと言う人もいれば、ミャンマーやベトナムの人はすごく真面目でハングリー精神があるのですごく良いという声も聞きます。技能者も待遇が明確になり、企業も優れた人材を雇用できるという良い循環が生まれますね。

藤條「本来、外国人を雇うのは安くなくて、むしろ高い(笑)。教育しないといけないし、支援の義務もある。同じ若い子を日本人で雇ったら、外国人のほうがよっぽどコストは高くなります。それでも受け入れないといけないような状況になっているので、そういうことを許容して処遇できる企業だけが外国人を受け入れることができると思います。

間違った理解をする人もいるんです。例えば、日本語能力が劣るので、給料が安くていいだろうと平気で言う人もいるし、自分が育てた外国人労働者が他から引き抜かれるのはけしからんという考えをする人もいます。今回の特定技能外国人は、日本人と同様、職業選択の自由があって、そもそも適正な処遇であれば離職の心配もなくなるはずだと考えています」

―建設キャリアアップシステムで自社の職人が他社に明らかになってしまうため、引き抜きに関する企業の懸念は大きそうですね。

藤條「これに対しては一定の対策をしてあります。技能者の情報は、工事期間中にしか見ることができない。もしくは工事期間中ではないときには、雇用主と技能者が同意している場合に限って情報を掲載できるということにして、引き抜き防止対策は図っています。

しかし、そもそも論として引き抜き行為が起こり得るから、技能者の処遇が上がるわけです。雇用主は、自分が育てた職人が逃げないように適正な処遇をすべきなんですよ。そのために見える化をする。そこは企業の方にとっては抵抗感のあることだとは思いますが、建設キャリアップシステムはそういうことなんです。

我々が取り組むべきなのは、良い職人を育て、レベル3〜4の技能者を多く抱えている企業にも評価をするという仕組みづくり。社会保険にも加入させて、資格も取らせて、一生懸命やっていると得をする世界をつくらないといけない。企業評価のあり方も今進めているので、真面目にやっている人が報われるような世界を、この数年間で実現しないといけないと考えています」

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